受難体質の女軍人は漆黒の美形獣人に求愛される
「レーヴなんて、尻がでかくて大したことのない女だろう。そうだ、レーヴなんかよりあっちにいる彼女たちの方がよほどあなたにはお似合いだ。良ければ、紹介させてくれないか?」

 ジョージの提案に、女性たちはますます盛り上がった。
 遠巻きに見るだけでもうっとりする男と近づけるチャンスを、彼女たちがみすみす逃すはずがない。
 我先にとこちらへ向かって来ようとしている彼女たちに、レーヴはゲンナリした。

(うげぇ……)

 レーヴは恋愛市場にいる男が苦手だが、恋愛市場の頂点にいる勝ち組と呼ばれる女性たちはもっと苦手である。蹴落とし合うくせに、表向きは仲良し。気持ち悪くて仕方がない。

 肉食令嬢を見つめて嫌悪感をあらわにしているレーヴの隣で、ジョージがデュークを案内しようとしながら、握り潰されそうな手を外そうとしていた。
 がっしりと握られた手はちっとも外れない。躍起になっていると、デュークは興味を失ったように唐突に手を放した。

「ジョージくん。レーヴは素晴らしい女性だ。幼なじみだというのにそんなことも知らないなんて、かわいそうだね。では、我々はこれから行くところがあるので、これで失礼させていただく」

 有無を言わせぬ冷ややかな声に、ジョージは悔しげに「俺だって」と言ったが、女性たちの「行かないでぇ」という声にかき消された。

 レーヴはデュークにエスコートされ、そのまま場を離れた。
 背中に突き刺さる視線は、嫉妬した女性たちのものか、それともジョージのものだったのか。レーヴには判断がつかなかった。
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