受難体質の女軍人は漆黒の美形獣人に求愛される
「なんじゃと……?」

「ほら、ジョシュアがレーヴの様子を見てこいって言った時ですよ」

 ニンマリと人の悪い笑みを浮かべるアーニャに、ジョシュアの目がギラリと光る。

 気の弱い者ならば、その眼光に射殺されると恐怖するに違いない。アーニャはちっとも堪えないが。

 彼女は恐れるどころか渡り合うようにさらに邪悪な笑みを浮かべ、応戦するつもりのようだった。

「おまえからは元気だったと報告されたが?」

「ええ、元気でしたよ。足元で男がひざまずいていましたけど」

「なっなんじゃとぉぉぉぉ!」

 落雷のようなジョシュアの叫び声に、机に突っ伏していた者は飛び起き、休憩室にいた者は「敵襲か!」と飛び出した。

 しかし、勢いのまま立ち上がったジョシュアが腰を押さえて痛そうに顔をしかめているのを見て、それからアーニャが気にしないでとジェスチャーをすると、彼らは「またか」と呆れたような顔をして戻っていった。

「ジョシュア。もう歳なのですから、そろそろ引退なさっては?」

「わしの目標は生涯現役……早々退いたりせぬわ……。それより、レーヴちゃん。アーニャの言っていることは本当なのか?」

 そろりそろりと腰を下ろしたジョシュアは、真剣な顔をしてレーヴに問いかけてくる。

 どうしたものかとレーヴは思ったが、ジョシュアを介助していたアーニャが好奇心丸出しの顔で待っているのを見て、観念したように深々と息を吐いた。

「……言います、言いますから。とりあえず、おじいちゃんは落ち着いてください。またぎっくり腰になったら、今度こそ入院ですよ?」
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