嘘と愛

「やぁ」

 声がして零は振り向いた。


「こんなところで、どうかしたのか? 」

 誰? と、零は大雅を見ている。

「あ、ごめん。俺、宗田大雅」
「宗田? 」

 宗田と聞いて、零は怪訝そうな目をした。

「おい、そんな怖い顔するな。せっかくの美人がもったいないだろう? 」
「な、なんなの? あんた」

「だから、俺は大雅って言うんだ。名前は? 」
「なんで私なんかの名前聞くの? 」

「だって気になったからさ、すげぇ美人だし」
「何言ってるの? 」

「名前くらい教えてくれよ、そのくらいいいだろう? 」

 零はムスッとして、ちょっと俯いた。

 そんな零を見て、大雅は軽く笑った。

「ねぇ、ちょっと俺と付き合ってよ」
「はぁ? 」

 驚く零をよそに、大雅は手を引いて歩き出した。

「ちょ、ちょっと! 」

 零の声を無視して、大雅はどんどん歩き出した。




 駅前のちょっとオシャレなオープンカフェ。

 まだちょっと寒いため、外への窓は閉めてある。

 窓際に座った大雅は、珈琲を注文した。
 零はカフェオレを注文した。

「ここ、俺のお気に入りのカフェなんだ。悪かったな、強引に連れてきて」
「…なんなんですか? 本当に…」

「ごめん、ごめん。そんなに怒るなよ」
「だって…」

「ナンパされちゃたって、思ってくれよ」
「ナンパ? 私…そんな軽くありません…」

 ムッとした目をする零を見て、大雅はなんとなく可愛く思えた。

「そんな意味じゃないって。それより、名前教えてくれ。俺はさっきも名乗ったが、宗田大雅」
「…水原零です…」

「零ちゃん? 可愛い名前だね」
「そうですか? 」

 注文した珈琲とカフェオレが持ってこられ、大雅はそのまま飲み始めた。


 零もちょっとずつ飲んでいる。


「ねぇ、零ちゃんは仕事は何してるの? 」
「…公務員です…」

「へぇ、安定した仕事だね」
「まぁ…」

 
 愛想なく話している零。
 大雅はそんな零を見ていると、胸がキュンとなる。

「ねぇ、これからも俺と会ってくれる? 」
「…それは…できません」

「なんで? 」
「…貴方くらいの人なら、私じゃなくても他に会ってっくれる人は、いる筈です」

「そうだなぁ。俺は、モテモテだからなぁ」

 何自分で言っているの?
 判っているなら、なんで私なんかに声かけるの? 

 そう思って、零はそっと視線を反らした。
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