嘘と愛
ふと見ると、零の左手がない事に気づいた幸喜は、その手を見た瞬間、自分の手にも激しい痛みを感じた。
お弁当を受け取った隆司は、零を気にしている幸喜をじっと見ていた。
「綺麗な女の子ですね。お名前、聞いてもいいですか? 」
「零っていいます」
幸喜はそっと零の頬に触れた。
零はきょんとしたが、ニコッと笑った。
「うちにも娘が1人います。同じ年くらいですよ」
「そうなのですね」
「はい。あの、時々でいいのでうちの娘と一緒に遊んでもらえませんか? 」
「このあたりの方ですか? 」
「いえ、家はちょっと離れています。でも、すぐそこの会社なんです。娘も連れてくる時があるので、その時にでも遊んでもらえたらと思います」
「そうなんですね。うちもよく、主人にお弁当を持って来ますから。その時にでも、遊んで下さい」
これがきっかけで、幸喜は零と椿を時々、駅近くの公園で遊ばせていた。
しかし椿が大きくなるにつれて、タイミングは合わなくなり、遊ぶ機会も減ってしまい、隆司も移動になり駅前の交番から他の部署へ移動になったりと、会うことが出来なくなってしまった。
しかし10年後。
幸喜が仕事の帰りに、なんとなく駅近くの公園に立ち寄った時だった。
零を連れて遊んでいる隆司がいた。
懐かしくて声をかけた幸喜に、隆司は気さくに挨拶をしてくれた。
零はもうすぐ中学生になる年になっていて、顔立ちがハッキリしてきた零を見て自分とそっくりな顔立ちになっているのを確信した幸喜は胸がいっぱいになった。
左手は三角巾で吊っていて、片手だけの零を見ると、幸喜はまた自分の手にも痛みを感じた。
零は片手でも、遊具で遊んで楽しんでいる。
「あの…零ちゃんの手は、どうかしたのですか? 」