嘘と愛

 幸喜が隆に尋ねた。
 隆司はちょっと辛そうな目をしていた。

「赤ちゃんの時に、事故で左手を切断したんです」

 と、ちょっと苦しそうに答えた隆司。

「切断…。じゃあ、零ちゃんはずっと左手がない状態で? 」
「はい。小さい頃は成長もあり、義手を作るのはちょっと難しいようだったので。中学生になったら、義手を作る予定にしています」

「そうですか…」

 また…幸喜は自分の手にも痛みを感じた。
 この痛みはきっと、零が感じた痛みなんだ…。
 幸喜はそう思った。

「あの…。零ちゃんの義手を作る為に必要な費用、僕に出させてもらえませんか? 」
「え? 」

「すみません、出しゃばった事を言って。でも、初めてあの交番で会った時から。なんとなく、零ちゃんの事は、他人とは思えなくて。だめですか? 」

 隆司は少し視線を落として考え込んだ。

 幸喜は隆司の答えを待った。

「…お願いできますか? 」

 少し迷ったようだが、隆司はじっと幸喜を見つめて言った。

「はい、喜んで」

 幸喜の満面の笑みを見ると、隆司はどこか零と重なって見えた。

 こうして幸喜は、零に内緒で義手を作るために費用を出していた。


 零の義手ができたのは中学生になった時だった。


 義手が出来た事で、随分見栄えも良くなり、普通に動かしていると左手がない事は分からないほどになって零もとても喜んでいた。



 その後、母親の喜代華が亡くなり。
 隆司と2人で暮らしている零に、幸喜はこっそりと援助していた。

 シングルファザーになてしまった隆司は、女の子の服などを買う事がちょっと苦手で、零に好きな服を買うようにお金を渡すことが多かったが。

 零は勿体ないと言って、貯金してしまい新しい服を買おうとしなかった。

 袖がほころんでいるブラウスを着ている零を見て、隆司は自分では力不足だといつも感じていた。

 幸喜とは時々連絡を取って、こっそり会っていた隆司は、自分の力不足を幸喜に話していた。

 だが幸喜はいつも

「そんなことありません。水原さんは完璧ですよ」

 と言って励ましていた。
< 134 / 152 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop