嘘と愛
 零は食卓の椅子に座って、飲み物を飲み始めた。
 そんな零を見た幸喜は、零の髪が濡れたままなのに気づいた。

「あれ? 髪濡れたままだね? 」

 零に歩み寄って行った幸喜はそっと髪に触れた。

「ちょっと待っててね」

 そのままリビングを出て行った幸喜。

 零は何も言わず俯いていた。



 リビングを出て行った幸喜が、ドライヤーを手に戻ってきた。 

「ちゃんと乾かさないと、風邪ひくよ」

 そう言って幸喜は零の髪をドライヤーで乾かし始めた。
 ドライヤーは普段使わない零は、ちょとだけ目をつむった。

 髪を乾かしてもらう事なんて、美容院に行った時しかなく、いつもは自然乾燥をしている零。
 幸喜の髪を乾かす手つきはとても優しくて、美容院で乾かしてもらうより心地よく零には感じた。

 
 髪が乾くと櫛で丁寧にとかしてくれた幸喜は、零の髪がとてもサラサラしていて嬉しそうな顔をしていた。

「とってもサラサラした髪をしているんだね。ちゃんと乾かした方が、綺麗にまとまるからこれからは乾かした方がいいよ」
「…はい…」

 小さく答えた零。

 ふと、零の左手を見るとお風呂上りは義手をつけていなかった。
 左手だけない零を見ると、幸喜は胸が痛くなり込みあがって来る気持ちをぐっとこらえた。

「どんな零ちゃんでも完璧だよ。応援しているから」
 
 完璧って…お父さんと同じ事を言ってくれる…。
 ただの偶然?

 そう思った零だが、幸喜の声はいつ聞いても心地よくて頑なな零の気持ちを楽にしてくれる。

 ずっと…捨てられたんだって…思っていたけど…。
 違うのかな?

 零はちょっとだけ幸喜を見上げた。


 幸喜はドライヤーをしまいに行った。

 零はなんだか分からない感情が込みあがってきて、もう寝ようと思い二階へ向かった。



 手すりにつかまりながら、階段を上がってゆく零。

 ドライヤーをしまって、幸喜がリビングに戻る姿が見えた。

 なんとなく目で追ってしまった零。

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