冷たい雨
回想━高校一年、四月━
 二十数年前──


 あれは高校に入学したばかりの事だ。
 同じクラスの女の子で、やたらと皆の世話を焼くお節介な子がいた。

 当時の僕はみんなと出身中学校が違う為、誰一人として知った顔が居らず、浮いた存在だった。
 元々ここは自分が志願した高校ではない。
 高校受験に失敗した僕は、自分の学力よりランクの低いこの高校に通う事になった。本命だった高校は、受験直前に風邪で体調を崩してしまい、熱で頭が朦朧とした状態で受験したため、後で見直すと結構なケアレスミスがあった。こんな大事な時に体調管理も出来ないなんて、我ながら最終的な詰めが甘い。これは誰を責める事も出来ない自分の責任だ。

 高校受験を失敗して、本命の高校受験の為に一年浪人も考えたけれど、翌年入学する同級生が自分より年下になると言うのも、今までの友達が一年先輩になると言う事も、自分の中で何となく嫌だった。せっかく滑り止めの高校は合格しているのなら、そこに進学したらいいじゃないかと両親と担任に説得されて、高校進学を決めたものの……。

 自分の意思に反して進学する学校で、果たして三年間も我慢出来るのだろうか。
 この世に生まれて十五年、初めて経験する人生の挫折に、何だかすべての事がどうでもいいと言うか投げやりになっていた。
 今現在の僕の虚無感とはまた違う、反抗期も混じった虚無感に襲われていた。

 そんな完全に浮いた存在の僕にも分け隔てなくいつも自然に声をかけてくれる、不思議な子だ。

「白石くん、おはよう」

「白石くんバイバイ、また明日ね」

 まだ入学式が終わって数日しかたっていないにもかかわらず、最低でも朝と下校時の二回、必ず挨拶で声をかけてくれる。
 僕の彼女に対する第一印象は、話をした事のない俺の事もきちんと名前を憶えているなんて凄い、だった。
 彼女、瀬戸梓紗(せとあずさ)は、僕と出席番号も近いから当然席も近い。出身中学が違う僕の事が珍しいのか、何かと僕に声をかけてみんなの輪の中に引き入れようとしてくれているのは何となく分かっていた。でも当時の僕は、そんな気遣いも煩わしくて、誰も寄せ付けない様に休み時間は席を外すようにしていた。

 そんな僕の考えている事なんて瀬戸さんはお見通しだったのだろう。だから朝と下校時の挨拶は僕も避けられないから仕方なく挨拶を交わすようになった。
 あくまでも挨拶だけ、である。

 瀬戸梓紗と言うこのお節介な女の子は、性格に反して見た目は物凄く、下手したら何かの拍子で折れてしまうのではないかと思う位に線が細い。

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