エリート弁護士は、溢れる庇護欲で年下彼女を囲い込む
私の居場所

春の気配はまだ遠い三月初旬。
浅木詩織(あさぎしおり)は、東京の下町を力なくさまよっていた。

(どこを歩いているのかわからない。どこへ行けばいいのかも……)

ふと美味しそうな香りがして、周囲を見た。
この辺りはアーケードのない商店街といった雰囲気で、古めかしい趣の個人商店が軒を連ねている。

食指が動かされた匂いの元は、二軒先にある総菜屋のようだ。
買い物バッグを腕にかけた女性たちが店先に見え、「いらっしゃい。今日のお勧めは肉シュウマイだよ」と、威勢のいい店員の声が聞こえる。

時刻は夕暮れ時。
空腹を感じた詩織だが、総菜屋の前を通るのを避け、路地のような細道に入った。

(裏通りを歩こう。その方が人目につかなくて安全。でも、このまま闇雲に歩いても疲れるだけで、どこにもたどり着けない。どうしよう……)

所持金は一万円弱。
それが詩織の全財産であった。

薄手のコートやハーフブーツは品質の良いものだが、小型のボストンバックには三日分の着替えとスマホがあるだけだ。

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