エリート弁護士は、溢れる庇護欲で年下彼女を囲い込む
幸せの約束

矢城法律事務所にも盆の時期に夏季休暇というものがある。
三日後に連休を控えた平日、詩織のスマホに実家の母親から電話がかかってきた。

十六時半の事務所内には、矢城と赤沼、詩織の三人が揃っている。
母親には毎週のようにメールで近況などを報告していても、電話は久しぶりだ。
今は業務中だが客はなく、「電話に出ていいよ」と矢城が言うので、詩織はお礼を言って相談室に移動した。

「もしもし、お母さん?」
≪仕事中にごめんね。帰ってくる日のことなんだけどね――≫

夏季休暇の初日に、詩織は宮城県にある実家に帰省を予定していた。
それには矢城も同行するつもりで、母にはその旨をメールで伝えてあった。
結婚の承諾を得るためだ。

いや、承諾というより紹介と言った方がいいだろう。
娘の結婚相手として、矢城は歓迎されるに違いないのだから。
きっと入籍はいつか、結婚式はどうするのかという話になると思われる。

詩織は母親から、ひと部屋を客間として空けるから、泊まっていったらどうかと提案された。
それを申し訳ない思いで断る。

「矢城先生は忙しいから、一泊しかできないし、観光がてら温泉宿に泊まろうと話してるんだ。先生、宮城は初めてなんだって。ゆっくりできなくてごめんね」
≪そうかい。おもてなししたかったんだけどねぇ。詩織を救ってくれた恩人だから≫

不倫騒動で芸能界を追われ、どん底にいた時から今に至るまで、矢城にはどれだけ助けられてきたことか……。
それは報告してあるので、母親も矢城に深く感謝している。

泊まっていってほしいというのは、その感謝をもてなしの形で表したいと思ったからだろう。
残念そうな声を漏らしていた母親だが、≪また今度、ゆっくりふたりで来たらいいね≫と了承してくれた。

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