都合のいい女になるはずが溺愛されてます
螺旋階段に登る途中、佐久間は何回か撮ってくれた。
頂上まで上って景色を一望した後下って、塔から出ようとしたら突然手を握られた。


「仁奈、こっち向いて」


言われた通りに振り返ったら佐久間に肩を抱かれた。
え?と思った瞬間、スマホの内カメラにふたりの姿が映し出されているのを見た。


「まあ、割といい感じ」


撮った写真を確認して手を離した佐久間。
……もしかして、ふたりで写真を撮ったの初めてじゃない?
なんだこれ、本物のカップルみたい。


「なぁーんで照れてんの」

「照れてないです」

「ははっ、かわいい」


嬉しすぎて顔に出てしまった。
けどからかわれたのは悔しいから、その満面の笑みを自分のスマホで撮ってやった。
それがあまりにも綺麗だったので、密かに宝物にしようと思ったのは佐久間には秘密。




「おもしろかったね箱根」

「うん、楽しかったです」

「また来よう」

「今度は冬もいいですね」

「あー、冬の露天風呂もいい。冬はカニの季節だし。
仁奈、年末年始箱根で過ごすってのはアリ?」

「アリですね、最高じゃないですか」

「じゃあ約束、年末は俺と温泉旅行ね」

「はいっ」


帰りの車の中で初めて約束を交わした。
まだ完全に佐久間のことを信用したわけじゃない。
でも、今回は佐久間の言う『また』を信じてみることにした。
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