都合のいい女になるはずが溺愛されてます
「泣くほど俺のこと好き?」

「たった今嫌いになりました」

「出た、かわいくねー」


聞き慣れたその言葉。いつまでも素直になれないけど、そんなあまのじゃくな部分を佐久間はお気に召しているらしい。

こんな時佐久間は素直になれよ、と言わんばかりに意地悪く笑う。
しかし今回は違って、私の目をしっかり見ていつもと違う笑い方をした。


「でもそういうとこひっくるめて全部好き」


思わず言葉を失った。
そんな人懐っこい笑顔で言われたら好きになるに決まってる。
絶対、ほかの人に佐久間のかわいい部分見られたくない。


「あは、すっげーマヌケ面」

「だって、急にそんなこと言われたら驚くに決まってます」

「仁奈もずいぶん表情やわらかくなったよね、よかった」


目を細めて笑う佐久間が愛おしい。
母性をくすぐる笑みにたまらず目を背けた。


「にしても、結構仲良くなったつもりなのに警戒されてたとは。
道理で口説いても反応が曖昧なわけだ」

「いろんな女の人に同じこと言ってるんだろうと思って」

「あー、その辺の信頼関係から築いて行かないとだめか」


佐久間は私の手を包み込むとにぎにぎ触ってくる。


「俺、頑張るから見てて」


清々しい笑顔で決意表明した佐久間。
この日、私は初めて佐久間を信用してみることにした。
< 155 / 263 >

この作品をシェア

pagetop