都合のいい女になるはずが溺愛されてます
「早く結婚してよかったと思って」


予想外すぎて面を食い、持ってたカニスプーンをお皿の上に落としてしまった。
発言が大胆すぎない?
少し早い時間で周りのテーブルに誰も座ってないとは言え、レストランでそんなことを言われるとは思わなかった。


「次は温泉だね、楽しみ」

「……そう、ですね」

「仁奈の弟たち悔しがりそう、家族より旦那を優先したって。
まあ新婚だからそれくらい許して欲しいけど」


結婚してよかったとか新婚とか、そんなこと嬉しそうに語るタイプだった?
元クズ男の印象が強いせいか、目の前にいる男は本当に佐久間なのかと疑ってしまう。


「カニ、食わねーの?」

「だってそれどころじゃないこと言うから……」

「あは、やった。仁奈の食い気に勝った」


嬉しそうな声で無邪気な笑顔。
どうでもいい勝負なのに心底嬉しそうでなんにも言えない。
それに私にしか見せない笑顔だから優越感でいい気になってしまう。


「……ずるいですね、佐久間さん」

「あ、また『佐久間さん』に戻った。
つーか、ずるいのはお互いさまだって」


このやり取り、何回しただろう。きっとこれからも同じような会話を繰り返すんだろう。
ありきたりな幸せだと思う。
だけどその日のカニは相乗効果で、今まで食べた中で一番美味しい気がした。



fin
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