都合のいい女になるはずが溺愛されてます
鍵を渡した佐久間は予告通り週末に泊まりに来た。
テレビを見ていた佐久間は「あ……」と呟いて私の方を見る。


「そういや、うつらなかった」

「何が?」

「仁奈の風邪」

「よかったですね」

「えー、俺は残念。そしたらもっと効果あったのに」

「効果?」

「課長に対する効果」


そう言われてもピンと来なくて首をかしげる。
わからなかったので、その代わりに課長と言われて思い出したことを口にした。


「そういえば、あれから課長が私のことを避けるんですが」

「遠藤は俺が狙ってるのでやめてくださいって言った」

「は?」


狙ってるというか、もう手中にあるのに。
それに彼女でもないのに守ってもらわなくてもいいんだけど。


「あと、あいつ全然可愛げないから課長も苦労しますよって」

「そんな余計なことまで言ったんですか?」

「嘘、それは言ってない」


低い声で問い詰めたら「マジだから怒んないで。ごめん」と笑いながら謝られた。


「仁奈、本当はかわいいから大丈夫」

「……思ってもないこと言われても嬉しくないんですけど」

「え、こういうのリップサービスだと思われてんの?心外だわ」


リップサービス以外のなんだと言うの?
追加で文句を言おうとしたのに、佐久間がショックを受けた顔をしていたから口を閉じた。

あ、この顔あれだ。
実家のラッキーがイタズラして「今日はおやつ抜き!」って言われた顔にそっくり。


「だって、いつも真剣なら女性泣かせたりしないでしょ」

「その時は真剣なんだけどね」

「そうやって結局捨てるなら佐久間さんに引っかかる子が可哀想だし、もういい歳なんだから落ち着いたらどうですか?」



「じゃあ、仁奈に落ち着くってのはアリ?」


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