「あんたじゃない、とは言ってないからね」

 結局、親友が彼のそばにいたから、彼の隣にいたから、私は近付くことを許されていただけだった。
 まぁ、そんなの、最初から分かってたけど。またずるずる、最後に逢った三日前の土曜日までの約八ヶ月間、私は彼からの誘いに「ノー」を吐き出さなかった。その結果が、この、お腹の子だ。
 するり、膨らみなんて全くないお腹を撫でれば、タイミングがいいのか悪いのか、ぴりりと携帯が鳴く。視線をそこに落とし、表示された相手を確認して、小さく息を吐いた。

「……はい」
『悪ぃ。今平気か? 昼休憩もう終わってんなら夜にまたかけるけど』

 噂をすれば、何とやら。まぁ、頭の中で思い浮かべていただけなのだけれど。

「平気だけど、何?」
『……今度の、日曜、あいてるか?』

 いつもは金曜の夜か土曜の夜なのに、珍しい。明日、雨かな。
 なんて、そんな、今さらどうでもいいことを思いながら、相手に聞こえないように微量の息を吐く。
 あいてるよ。いつもの私なら、そう言う。

「……あいてない」
『……マジか。じゃあ、らい』
「来週も、再来週も、その先もずっと、あいてない」
『え、や、は?』

 けれどもう、今までの私じゃないから、言わない。 
< 4 / 16 >

この作品をシェア

pagetop