愛され、溶かされ、壊される
誤解
三井さんは、あれからずっと会社に来なかった。
職場のみんなは失踪したらしいと言っている。

「……」
「葵?大丈夫?」
「加那ちゃん…私のせいかな?」
「そんな訳ないじゃん!あんたはただ、突き飛ばしただけでしょ?そんなことで、失踪っておかしい」
「まぁ、そうだけど…」

それから仕事が毎日忙しいこともあり、いつの間にか三井さんの話をしなくなった。

今日も今私は資料室にいる。
「えいっ!ほっ!あーもう!届かない…」
これだから困る。
「はぁー。竜くん呼んじゃおうかな…。
ってダメ、ダメ!竜くんも忙しいんだから!」

「俺が取るよ?どれ?」
「え?」
「久しぶり、はまちゃん!」
「あっ!新浜くん。一番上にある、青いファイルを」
「了解!――はい!」
「ありがとう!助かったぁ!」
「どういたしまして」
この男性は、新浜 武司くんと言って同期入社の社員だ。実は加那ちゃんより先に仲良くなった人で、最初の頃は一緒にお昼ごはん食べたりしていた。
少しきつい顔をしているけど、とても優しくて好意的だった。

「でも、どうしたの?ここ、広報課の資料室だよ!」
「あー、来週から広報課に移動になったんだ。広報課の社員が急に退職したんでしょ?」
「あ、うん…」
「それで、資料を色々見ておこうかと…」
「そうだったんだ!」
久しぶりに話をして、ついはしゃいでしまった。

「あっ、ごめんね…つい、懐かしくて…」
「………ううん。はまちゃん、綺麗になったね…」
「え?そうかな…?」
新浜くんの手が頬に触れる。
「―――!嫌っ!」
バサバサバサバサ―――
三井さんのことがフラッシュバックし、つい手に持っていた資料を落とす。
「あ、ご、ごめんなさい…」
「いや、俺こそごめん。急に触って…」
「あの、私行くね!」
乱暴に資料を取り、資料室を出ていった。
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