潔癖女子の憂鬱~隣人は、だらしない男でした~
◆待ちぼうけ
「ここか……」

舞は、見慣れた赤い屋根と前面ガラス貼りの店の前に立って店の名前を確認する。

『ビストロ・ラパン』

譲が指定したのは、舞の会社の近くのカジュアルフレンチ・レストランだった。
店はどこがいい?と聞かれた時、自分の方が早く仕事が終わるからと譲に合わせると伝えた。結果、会社から歩いて10分もかからない店を告げられた。
仕事帰りにいい匂いが漂ってきて、美味しそうって眺めていた店だったが、夜の一人ご飯にこういう薄暗いムーディーな店は敷居が高いと思い避けていた。

ーーっていうことは、譲さんもこの近くで働いているってこと?

通勤の時に会うことがなかったし、全く思いつかなかった。
でも、フレックスタイムかもしれない。
それなら、遅く出て遅く帰ってくるというのも合点がいく。
だから、そもそも生活リズムが違うのかもしれない。
こんな素敵な店を知ってるあたり、そういうリサーチにも抜かりないのだろう。

日曜日のあのだらしなさとは、ぜんぜん結びつかないけれど。

平日の譲と日曜日の譲のギャップを思い描き、笑いが込み上げてくる。

ーーあっ。いけない、いけない。

ドアを引き中に入った。

すると、「いらっしゃいませー」という声が聞こえた。
緩いウェーブかかった髪の毛の可愛らしい女の子が、近づいてきて「予約ですか?」と聞いてきた。
確か予約はしてないって言ってたから、場所だけ確保しておけばいいはず。
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