潔癖女子の憂鬱~隣人は、だらしない男でした~
◆契約のかわりに


17時。いつもの時間のはずなのに、譲が帰ってこない。

舞が部屋に戻ったついでに覗いたときも、気づかずに熟睡していたくらいだ。もしかしたら、疲れて起きられないのかもしれない。
家に帰って起こしにいこう。そして、譲が戻ってくる頃にはきっと冷めてしまう、このご飯は温めてもらおうと、テーブルに置いた料理にラップをかけた。
エプロンのポケットからメモ帳を出し、作った料理の温め直す電子レンジの時間を書き始めた。

すると、「ごめん、遅くなった」と、クリーニングされた大量のスーツを持って、譲が戻ってきた。

「あれ?今日は、先にスーツ取ってきたんですか?」
「あぁ。それより旨そうな匂いすんな。もしかして、メシ作ってくれたのか?」

「今日で最後ですし、せっかくなので茶碗蒸し好きって聞いた気がして、作ってみました。あ、温めなおします?」
「いや、あとで食べる」

「そうですか。じゃあ、ちょっと待ってて下さいね」

舞は、途中まで書いていたメモを書き上げた。

「えっと、ここに温め直す時間を書いているので、参考にしてくださいね。じゃあ、私はこれで失礼します。また、明日会社で」

お辞儀をして、俯いたままエプロンのひもを緩める。
本当にこれで最後なんだ、と思うと涙が溢れそうになるのを下唇を噛み必死にこらえた。

「いいのか、ほんとに」
「え?」

顔を上げて、譲を見やる。
どういう意味だろう。
譲の言葉の意図が分からずに、舞は目を丸くしながら見つめ返した。
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