潔癖女子の憂鬱~隣人は、だらしない男でした~
舞がテレビを消すのと同じタイミングで、ガヤガヤとした大きな声が聴こえてきた。

息を潜め耳をそばだてていると、お笑い番組のようだった。
時計を見ると、23時過ぎ。深夜のボリュームではない。
確かここは、単身者用の分譲マンションだったはずだ。学生の入居はごく一部と聞いていたが、そのごく一部が隣の部屋だというのだろうか。

不動産屋は、そんなことは言っていなかった。

テレビの音と笑い声が交互に響く。
30分ほど我慢してみたが、少しも静まる気配がない。
木造じゃないから騒音もそんなにないという触れ込みだったはずだ。それなのに、この仕打ちは契約不履行にあたいするのではないのだろうか。
我慢ならない! と、舞はソファーから立ち上がり玄関へと急ぐ。ドアノブに手をかけた途端、はたと気づいた。

――あ、夜中に無用心か。

もし、隣の住人が怖い人なら。
もし、隣の住人が反社会的勢力なら。
もし、隣の住人が言葉の通じないパーティーピーポーなら……

今日がたまたまなのかもしれない、と隣人宅へ怒鳴り込む計画を白紙に戻す。
ベッドの布団を頭から被った舞は、深夜1時過ぎまで続いた騒音をやり過ごした。
< 6 / 62 >

この作品をシェア

pagetop