潔癖女子の憂鬱~隣人は、だらしない男でした~
◆現行犯逮捕っ!
「ちょっと、結城ちゃん。日に日にやつれてるけど大丈夫?」
「大丈夫れす」
「うわ、大丈夫じゃないじゃん。いつも、ちゃんとした言葉遣いしてるのに、語尾噛むとかありえないって」

舞の様子にびっくりした里崎が、心配そうな顔を向けてきた。

「ちょっと寝不足なだけです」
「面白いテレビとか本とかで夜更かししてるの?」

「そういうのじゃないんですが……」
「引っ越したって言ってたよね?まさか事故物件で幽霊が出たり、金縛りにあったりしてるとか?」

力なく首を横に振って否定する。

霊感は強くないし、むしろそういうのは感じないタイプだ。
幽霊ならどんなによかったか。
幽霊より人本能のまま生きる人間の方が恐ろしいと身をもって痛感している。

「じゃあ、なんで?」
「ちょっと、隣の騒音に悩まされていまして」

「マンションの管理会社には連絡した?」
「……してないです」

そっか、その手があった。
普段なら、冷静な判断をしながらリスク管理を行なっているのに、きっと寝不足で判断が出来ないところまで追いやられていたのかもしれない。
管理会社に電話をするなら、ついでにゴミ問題も訴えるチャンスだ。
舞が見たときだけ、たまたま日曜の夜にゴミ出しをして、分別をしなかっただけかもしれない。
どうせ言うなら、確固たる証拠を掴んでから伝えたい。

ぱぁぁぁっと、目の前に光が差し込んできた。

「里崎さんの助言で、私の穏やかな生活を取り戻せそうです」

里崎に向き直り、弾んだ声で伝えた。

「じゃあ、頑張れの意味を込めて、チョコを進ぜよう」

机の引き出しからチョコを取り出した里崎に、手のひらの上にチョコを1つ置かれた。
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