ロゼリアの黒い鳥


 可哀想なお嬢様。

 心が壊れてもなお、金のために父親に利用されて、さらに賊に攫われてしまうなんて。
 生き残った屋敷の者は皆、彼女の行く末を思い、心に翳を落とす。
 
 ロゼリアは黒い鳥とともに飛び発ってしまった。

 きっともう二度とここには戻ってこないのだろう。

 その方がいい。
 その方が幸せなのだと、アリシアはそう思うことにした。

 だって、彼に抱き締められたときのロゼリアは、このうえなく幸せそうな顔をしていた。
 あのまま男の腕の中で幸せな夢を見ていられるのであれば、あるいは。

 ――男は実は不幸な不幸なお姫様を助けに来た、黒衣の騎士だった。

 そうであってほしいと願うのは、きっとアリシアが臆病者で小心者だからだ。
 そう願わなければこの一連の凄惨なできごとを、自分の中で上手く消化できそうになかった。

 人は皆、不幸になるために生まれてきたわけではない。

 幸福になり、そして意味のある生をまっとうする。

 そのために産声を上げて生まれ落ち、喜怒哀楽を噛み締めて年を重ねるのだ。

 狂った世界に一人置き去りになったロゼリアもそう、きっと。

 きっと。


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