ロゼリアの黒い鳥
◇・◇・◇
――あぁ、この身体は随分と冷えてしまっている。
初春に吹く風は、外套を纏わない身体には少し冷たく、襟ぐりが大きく開いたドレスでは肌寒かっただろう。華奢な方に自分の上着をかけてあげたが、馬で駆けてきたからか少し震えていた。
物言わぬロゼリアを抱き締め、ブルネットの髪の毛に頬を寄せる。
この身体で温めてあげたかったが、どうやら不十分のようだ。男の身体もまた人間のような温かさはなく、ひんやりと冷たい。
自分の屋敷についたあと、男はロゼリアを抱えながら中に入り、彼女を一旦椅子の上に座らせた。寒くないように毛布で包み込み、暖炉にも薪をくべる。
お湯を沸かし浴槽に溜めると、手をお湯の中に差し入れてちょうどいい温度を測った。
部屋に戻ると、ロゼリアは毛布と暖炉の火で温まったらしく、頬に赤みが差し込む。
暖炉の火を見つめていた彼女の視界に入るように目の前に跪き、男は顔を覗き込んだ。
「……随分と穢れてしまったな」
あの男――ロゼリアの父の血が男の全身に降りかかり、彼女を抱き締めたときに白いドレスにべっとりとついてしまった。