ロゼリアの黒い鳥



 ロゼリア・カミングは実に抑圧された毎日を送っていた。

 抑圧していたのは、自分の父。
 横暴さと威圧感でロゼリアを押さえ付け、自分の思う通りの道を歩ませようとしていた。

 母も日頃の心労が祟ったのか父から逃れるように早世し、屋敷の使用人も皆父を恐れる。まさにカミング家の中で恐怖政治がおこなわれていたといってもいい。

 ロゼリアは、父にとっては商売道具だった。

 いかに高く売るか、いかに利用価値を見出すか。自分の価値はそれだけなのだと、ロゼリアも幼いうちから自覚できるほどに、教え込まれていたのだ。

 女に生まれたからには、金持ちを誑しこめ。そして、父に利益をもたらせ。

 そのために、容姿を磨くことは必須とされ、余計な知恵や考えを吹き込まれないようにと屋敷の中に閉じ込められた。悪い虫がつかないようにもしたかったのだろう。

 ロゼリアが女性として成熟し、女としての価値が出るまで外にも出られず、ロゼリアの世界は屋敷の敷地内で終始していた。

 部屋の中で勉強や読書、庭に出て散歩と花の手入れ。

 そして屋敷にお客様がくれば父に呼び出され、まるで見世物のように客の前に立たされる。おそらく早々にロゼリアをめぼしい人に売り込んでいたのだろう。そのときばかりは、父は大層ご機嫌にロゼリアをできた娘なのだと褒めちぎっていた。

 そんな代わり映えもなく、ただ自分が誰かに買われるのを待つだけの日々の中に、突如ギデオンという異分子が紛れ込んできた。


< 36 / 51 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop