ロゼリアの黒い鳥
庭の端で花の手入れをしていたロゼリアに、柵の外から声をかけてきたのが彼だった。
五年前のギデオンは、いわゆるストリート育ちで、空腹で今にも倒れそうになっていたときに、ちょうど柵の向こう側にブラックベリーが見えて、それをもらおうとロゼリアに声をかけた。
父や使用人以外の男性に声をかけられたことなどないロゼリアは酷く警戒したが、ギデオンのお腹の虫が盛大に鳴ったので拍子抜けしてしまい、望み通りにブラックベリーをあげた。
次の日、そのお礼を告げにわざわざやってきてくれた彼は、次の日もまた次の日もやってきた。そのときはもうブラックベリーを強請ることはなかったが、代わりにロゼリアと話したいと言ってくれたのだ。
ロゼリアが世間知らずなのもあったのだろう。
ギデオンが話してくれる外の世界の物語を夢中になって聞き、彼もまた話すことが楽しくなっていったのもしれない。
柵越しの逢瀬は、一年近く続けられた。
その頃には、ロゼリアもギデオンに随分と慣れ、自分の話をし出すようになった。
今日はどんなことを勉強した、父に怒られた、父の客人と会ったのだがこちらを舐めまわすような視線を送ってきて嫌だった。そんな他愛のない日常の話だ。