ロゼリアの黒い鳥
本当は、ロゼリアのもとに姿を現す前に、一旦ギデオンのところに契約を持ち掛けていたのだ。黄泉の入り口を歩く彼の魂に声をかけ、君を生き返らせることができるよ、と。
悪魔は人間の負の感情に敏感だ。
この男は他の誰よりも怨嗟を抱き、苦しみと絶望の中で死んでいったために魂が真っ黒に染まっていた。それはそれは美しいほどに。
生き返って、君をこんなに苦しめた人間に復讐をしよう。耳元でそう甘い言葉を囁いた。
ギデオンは反応を見せて耳を傾けたが、対価の話に移ると途端に憑き物が落ちたかのような顔になった。
「対価には君の大切なものをいただくよ」
そう告げると、彼は目を細めて言う。
「俺の大切なものはロゼリアだ。でも、ロゼリアを渡すわけにはいかないから……無理だ。きっと俺が死んで悲しんでいるだろう。父親にたくさんのものを奪われてきた彼女からこれ以上のものを奪ってまで生き返ろうとは思わない」
ギデオンは、恨み以上にロゼリアへの愛情を選んだ。
彼女から何かを奪うくらいなら、このまま命を捨ててもいいのだと。
まさに深い愛情とも言えるだろう。
(それじゃあ、オレがつまらないじゃないか)
せっかく底が見えない深い憎しみに身をやつしているというのに、このままみすみす死なせるのは惜しかった。面白そうなショーが見られると確信できるのに、逃がしてしまうだなんてもったいない。