ロゼリアの黒い鳥


 だから、ロゼリアのもとに向かったのだ。

 最愛の人を喪って失意の中にいる、まともな判断を下せない人間ならばきっとカイムの誘いに乗って来るだろうと。

 そして、案の定彼女はカイムの言葉に頷いた。
 しかも何を投げ出してもいいと言う。

 だから、ロゼリアの中に残る唯一のギデオンとの繋がりを絶った。思い出という名の繋がりがなくなったとき、果たして二人はどうするのだろうか。

 ギデオンはきっと嘆き悲しむだろう。彼女から何も奪いたくないと願ったのに、ロゼリア自らがそれを投げ打ったのだから。

 絶望した顔を想像するだけで、顔がにやけてしまう。

「もう一つ、対価としてもらってほしいものがあるの」

 ところが驚いたことに、ロゼリアはさらに対価を支払うと申し出てきた。

「私の正気を奪ってほしい。もうほとんどまともでいられる時間はないけど……できるなら、もう何もかもが分からなくなるくらいに壊してほしいの」

 ゾクゾクした。

 これだから人間というのは面白いのだ。

 ギデオンが甦り、ロゼリアに会いに行ったら記憶を失くしていたということだけでも十分悲劇だというのに、さらに悲劇を招こうとするとは。


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