夏の花火があがる頃
 次の日、札幌駅からJR函館本線に乗り、小樽へと向かう。

 走る電車が、小樽へ近づいてくると街の中を走っていた電車の風景が日本海に変わった。

 めぐみが嫌なら違う場所にしようと提案したものの、彼女が大丈夫の一点張りだったので、小樽に行くことにしたのだ。

 まるで一枚の絵のように、四角い窓の外がキラキラと光る水面に変化する。

「……綺麗だな」

 感嘆の言葉を悠也が述べるが、めぐみは頷くだけだった。

「昔、銭函に住んでたの」

 銭函の駅名をアナウンスが告げた時、めぐみが小さな声でボソリと呟いた。

「そうなのか。野幌じゃ」

「それは引っ越ししてから」

「そうか」

 何か、思い出すようにめぐみが語るので、悠也はただ相槌を打つだけにしたが、それ以上めぐみは何も話をしなかった。

 電車は四十五分間で、二人を札幌から小樽へと運んだ。

 駅に到着すると、お盆休みということもあり、小樽は人で溢れていた。キラキラと光る海に向かって、坂道を下って行く。

「俺、あんまり知らないんだけど、めぐみここの観光名所って何?」

「うーん。なんだろ。北一硝子とか?」

「行ってみるか」

「うん」

 その日は足がクタクタになる程、街中を歩いた。

 土産屋を覗き、北一硝子で売っているガラス食器を購入した。

 途中のカフェで買った焼きマシュマロアイスは比較的最近できた店だったようで、めぐみは喜んで食べていた。

 北海道に来てから、めぐみの食欲は少しだけ戻っていた。

 夕方になると、めぐみは花屋に寄りたがった。

「どうした?」

「うーん。ちょっと、海にも行っていい?」

 彼女が要望を出すことなど非常に珍しいことだったので、悠也は彼女の意向に沿うことにした。

 小さな花屋で買った、小さな花束を持って彼女は海の方へと向かって行く。

 慎吾へのはなむけかと思い、写真を取り出そうとするが、彼女の視線は慎吾の写真には向いていなかった。

 駐車場を抜けて、西に広がる地平線の先に、太陽が沈むことろだった。

 水面に真っ赤な一筋の光がこちらへ向かって伸びており、まるで空が燃えているようだ。

「……ここでね、お母さんが自殺したの」

 静かに言った彼女の言葉に、悠也は息を飲むだけだった。
< 69 / 75 >

この作品をシェア

pagetop