記念日はいつもバレンタイン
【優奈17歳】

「えー、俊兄ちゃん、東京行っちゃうん?」
「ああ、結局、最初に内定出たとこに入社することにしたんや」

 高校2年の冬休みのことだった。
 そろそろ受験という二文字が重くのしかかりはじめたのに、頼みの家庭教師の先生がいなくなっちゃうなんて。

 お先真っ暗やんか。
 数学がとにかく苦手で欠点ばかりだったわたしを案じて、高1の夏休み、親が頼んでくれたのが彼。
 家庭教師と言っても、実は幼なじみ。
 近所に住む大学生で5歳年上の俊兄ちゃんこと、畑中俊介くん。

「そんなぁ、めっちゃ困るやん。これからが受験本番やのに」
「そう言われてもなあ。それにこっちで就職しても、大学生のときのような訳にはいかんし。おばちゃんには他の人紹介するって言ったんやけど、聞いてなかったんか」
「聞いてないし、そんなん! うち、ほんま困るし。めっちゃわかりやすいんやもん。俊兄ちゃんの説明。学校の先生の、言ってることなんて、さっぱりわからへん」

 ぶーぶー文句を言っていると、俊兄ちゃんは、わたしの頭をぐりぐり撫でてきた。
 もー、相変わらずのガキ扱い。

「まあ、この冬休みは毎日来て、できる限り叩き込んでやるから。せやな、この問題集、最低3周はせえへんとな」
「えーっ、まだ1周も終わってへんのに?」
 俊兄ちゃんは不敵な笑みを浮かべて、あたりまえやろ、と言い放つ。
 もお、授業のときは〝ドS〟になるんやから……
 普段はめっちゃ優しいんやけどな。
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