私の好きな彼は私の親友が好きで

次に母が車を預けたのは、日本橋の中心にある有名なホテル。
話が通っているのか、名前を告げただけで、支配人が出迎えてくれる。
案内されたのはプレジデンシャルスイート。

ドアを開けて目に入る景色、大きなクリスマスツリー、
豪華な部屋に、口があんぐりと開き、
母を質問攻めにしたいのを グッと堪えた。
支配人と母が何かを話しているが、私には会話の内容は聞き取れなかった。

リビングのテーブルには4人分のティーカップが置かれていた。
それを見て、(あ、パパと弟が合流するのだ)と思った。

「ここでランチなの?」
「そうよ。」と言い、母はソファーに腰掛ける。
本当に、この人は我が親ながら堂々としている。
こんなゴージャスな部屋なのに、キョロキョロもせずに、
座って、支配人が淹れてくれたコーヒーを優雅に口にしている。

10分もしないうちに又、先程と同じ支配人さんがドアを開けた。
支配人の後ろに2人が立っていたが、私が想像していた父と弟の
姿では無かった。
「美穂ちゃん~ 久しぶり」と言いながらママに抱きつく。
「百合ちゃん、元気だった?」と母も破顔でハグに応える。
私はその百合ちゃんと呼ばれた女性の後ろに立つ
180㎝はゆうに超える男性に気が付いた。

嵌められた!

そう思い母を見るが、私が睨んでも、百合ちゃんと
呼ぶ女性と話に夢中になっていて、私の存在自体を忘れているのが
アリアリと伝わる。
「はぁ~」と盛大な溜息が無意識のうちに口から出て
慌てて口を抑える。
「騙されたみたいですね」と低く心地よい声が頭の上から
聴こえる(懐かしい)何故かそう思ったけれど、
全く記憶に無い男性を見て、芸能人の誰かと似た声なのかな?

「まんまと 騙された・・考えてみたら可笑しい事ばかり、
デパートに入った時と、出た時で、上から下までチェンジさせられ、
ヘアーメイクも・・家族で食事でここまでする訳が無いのに
気が付かない自分のバカさ加減を呪いたい」
「ククク 呪うとかまで言いますか。」
「これって・・お見合いですよね?」
「そうですね。カジュアルなお見合いですかね。」
「お見合いにカジュアルとかあるんですか?」
と一寸不貞腐れて口にした。

「あら、あら スッカリ仲良くなってママ嬉しいわ。」
ってどこをどう見たら仲良くなんて言えるかな~?
「ママが話してくれないから状況を確認しただけです。
名前も知らないのに仲良くも無いでしょ!」
「あら、美月ちゃん そんなに怒ったら折角の美人が台無しよ!
こちら ママの親友の息子さん。」
「飯島 薫です。」
「はじめまして。高遠 美月です。」
飯島 薫さんが一瞬、眉を顰めた気がしたが、
直ぐに笑顔になる。
「よろしく、美月さん」
丁度その時、ベルが鳴りそのまま、先程の支配人さんを先頭に
シェフ、ボーイさん、と3人ほどが部屋に入ってきた。
「そろそろ、お食事の準備をさせて頂きます。」
その声を合図に、私達はダイニングルームに移動した。
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