私の好きな彼は私の親友が好きで

私の感情は、一進一退を繰り返していた。
それでも、泣かなくなったのは薫さんのお陰だ。
翌日も残業しないで早く帰宅し、私の作った、拙い夕食を取った後に
マンション近くにあるカフェに連れ出してくれる。
今日、一日合った事を報告し合う。
私は薫さんに鍵を渡されたので、近所を散歩し、パン屋さんを見つけた事。
そこで、明日の朝ご飯に美味しそうなパンを購入した事を口にする。
日常に優しさが溢れていて怖かった。


一度、夜中に目が覚めた事があった。隣に居るはずの温もりが無くて怯えた。
でも、リビングからパソコンのキーを叩く音に、愛情を感じて涙が溢れ出る。
彼は私を一人で寝かせない為に、こんな時間に仕事している。
よもや私が起きるなんて思わなかったのだろう。
「寝たら中々起きないからね」と言っていた言葉を思い出し、
ソッとベッドに戻る。私が夜中に目を覚ましたのを知ったら、
ベッドに縛り付けてしまう。

「優しすぎるよ」私の言葉が気持ちが、何時か伝えられますように。

29日、自分の家に薫さんの家から出発する不思議。
会って1週間も経っていないのに、今の現状に戸惑うけれど
部屋を出た時に「行ってまいります。」と口にして出ると、
帰ってきたいのは此処なのだと解る自分の心。
薫さんの部屋に、車にも身体は慣れていく。
手を繋ぐことも、一緒に眠る事も。全部が日常に取り込まれる。
4日ぶりに足を踏み入れた玄関で「お邪魔します」と口から出た時には
自分で吃驚し、口に手を当てた。
父は眉毛を上げて不快そうな顔をし、母は気が付かないフリをしていた。
薫さんがキュッと握る手に力が入ったのを微かに感じた。

来客用の応接間では無く、家族のリビングに父が向かったという事は
怒っては居ないと?でも、何日も外泊をしているし、薫さんと母は
顔合わせを済ませているが、父とは・・薫さんが非常識だと怒られたら
亮介の事を説明しよう。彼は悪くないと・・・

しかし、リビングに入ると父と薫さん旧知の仲の様に
談笑し始める
(??????)
座っても離してくれない手。
両親の前で恥ずかしいのに薫さんは気にしない。

大人だ・・余裕しか感じられない。
私なんて自分の親なのに緊張している。
狡い・・・
それを感じたのか、私の方をみて柔らかく笑う。
それが合図だったかのように
繋いでた手を離し、背筋をピンと伸ばして薫さんが

「お嬢さんを私に下さい」と頭を下げた。

何故だか私も一緒に頭を下げた。
父はこうなる事を察知していたのか驚きもせず、
「思っていたよりも早く手放す事になってしまった」と
ボソっと呟いた。
「あら、私がお嫁に行った時より遅いわ。」
と朗らかな声が少し、父から醸し出す空気を軽くする。
そんな母を父は優しい目でみる。
母にだけ向けられる眼差し。
その、2人の視線を当たり前だと思って過ごした子供時代。
でも、それは特別な事だと思い知った大学生活。

私達も何時か、なれるのだろうか?

薫さんは続けて
「出来ればこのまま、自分の家で生活する事をお許し下さい」と
再度、頭を下げる。
父は躊躇い、言葉を探していると母が
「あら、もう、美月ちゃんが帰って来るなんて思っていなかったわ。
どうぞ、どうぞ。」
父が何か言いたさそうにしている、その膝に手を添えた。
何も言わないで父が横を向いた横顔が、少し悲しんでいるように見えた。
「さぁさぁ、折角のお休みをこんな所で時間を無駄にしないで、
デートにでも行ってらっしゃい」と
母は私達の腰を上げさせる。
母の思いやりに、あー この家に、この2人の子供に生まれた事を感謝し、
死にたいと思った自分を恥じた。
家を後にする時に父に 
「飯島美月で会社には席を設けた。しっかり働きなさい」
その言葉に感謝と愛を込めて「ありがとうございます」とだけしか
口に出来なかった。
< 66 / 105 >

この作品をシェア

pagetop