私の好きな彼は私の親友が好きで

「沢山買ってしまいましたね。」
「美月ちゃんが料理してくれるかと思ったら、欲がでて。」
「余り、期待しないで下さいね。家の母は料理をしない人なので・・」
「うちの母もだよ。昔、たまぁに母親らしい事をしないと!って
思い立つことがあって、料理を作るんだけれど そりゃあ~惨事よ。」
「解ります。うちの母も同じです。キッチンが大惨事で、お手伝いさんの
仕事が増えるんですよね。」
「美月ちゃんは誰に教わったの?」
「お手伝いさんに少し教わって、イギリスに行ってからは
ホストファミリーのママに。だから推して知るべしです」

薫さんの部屋に戻り、食品を片付けていると
「美月ちゃん、ちょっとこっちに来て。」と寝室から呼ばれる。
「ここ、美月ちゃんのスペース」と言って寝室の奥にある
扉を開き、6畳はありそうなウォークインクローゼットの
右側の部分を指した。
下着とか引き出しはここね。と・・
本当に私はここに住むらしい・・・
「こんなに広いスペース、必要ないです。」
「なに言っているの。さっきも言ったけれど、夫が妻の服や身に着ける
物を買うのは当たり前だし、楽しみなんだよ。
今まで、そんな事をしたことが無かったんだから、俺から
美月ちゃんにしか出来ない楽しみを奪わないで。」
(っもう、十分買って貰っている・・これ以上は)

なんか身動きが取れなくされかかっている???

薫さんと居ると、次から次へと予想外の事があり、
死にたいと思うほど絶望した昨夜を忘れていた。
そう、昨日の湯船に浸かり、
このバスタブで死にたかった昨夜を今、思い出した自分に
呆れた。

神様、私は幸せになっても良いのですか?
その幸せの為に優しい薫さんを利用して良いんですか?
そんな卑怯な私を許してくれますか?

そんな私を今日も薫さんは髪の毛を乾かしてくれ、
ベッドでバックハグをしてくれる。
「薫さん、有難うございます。」
「うん?」
「色々と・・気を遣ってくれて・・・年末に、こんなに早く
帰宅出来ないですよね。」
父の忙しさを思い出しながら口にする。
私の思っている事が解るのか
「君の父上は社長だけれど、僕は専務だからね。忙しさが違うよ」
この人は傷ついている私を一人で寝かせない為に・・
「もう、大丈夫ですから・・」
「俺はね、大丈夫じゃない人の方が大丈夫って口にするのを知っている。」

このバックハグで寝る事に慣れてしまったら、
この温もりが私から離れたら・・
私は耐えられるのだろうか?
薫さんは一生いてくれると言っているけれど
本当に一生いてくれるのだろうか?
家同士の繋がりを考えると、離婚はないかもしれない、
でも、心が離れてしまう可能性だってある。

どちらかと言うと心が離れてしまっている夫婦が多いのは
知っている。
だから、不倫なんて言葉でスクープされて話題になっているのが
後を絶たない。それは一般社会だって変わらない。
ましてや薫さんの様にハイスペックな男性は女性からの誘いだって
少なくない筈だ。その中に好みの女性が居たら・・
亮介だって私に気持ちが無いのに何年も身体を重ねて来た。
そう、考えると手が小刻みに震える。
それに気が付いたのだろう、大きな手が私の手を包み込む。
何も言わないで。
この温もりに全て委ねてしまいたい。
それは間違いですか?
私なんかが愛されるのでしょうか?
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