独占欲に目覚めた次期頭取は契約妻を愛し尽くす~書類上は夫婦ですが、この溺愛は想定外です~
連さんは今まで出会ったことのないタイプだから、私に興味があるだけなのかもしれない。はたまた、純粋に責任感から言っているのかもしれない。
どちらにしろ、私はまだ踏み込めない。

連さんが大事。だけど、この気持ちを恋だと浮かれることがまだできない。誰かと幸せになる未来を、敢えて見てこなかった私には、自分ほど信頼できない存在はないのだ。

「連、初子さん、挙式については来年で調整しようかと思っているんだが、どうだい」

同じテーブルの頭取が声をかけてくる。

「連の後継者指名を秋の役員会で行おうと思っている」

その話は寝耳に水だ。当初の予定では、来年度中だったはず。連さんが私の横で微笑んだ。

「お陰様で、本店営業部の達成率がよさそうでね。本部主導の企画もいくつか始動しているし、文護院頭取は今が追い風のタイミングだと判断したんだよ。ねえ」

連さんが私に説明してから、頭取に向かって微笑む。

「連が正式に後継者として決まったら、結婚式について考えればいいさ」

頭取のこの口調、私が連さんと離婚する選択肢を選ばないと思っているようだ。もし、私が結婚生活にピリオドを打ち、別な支店に移りたいと言ったらどうなるのだろう。
私は、まだ迷っている。
連さんの優しさや好意に頼って、このまま次期頭取の妻におさまってしまっていいのか。私のような女が……。
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