『義賊の女王』-世界を救う聖女となる-
 私たちが無事に戻ると、村の人たちが迎えてくれた。
 帰らない人もいることを告げても、誰も下を向かない、きっと心の内では悲しんでいるはずなのに見せないなんて、強い。
 私も強くならないと、そんなことを思っていると、ファルスさんたちがジャマルから荷物を降ろし始めた。

「あれ? ラバルナは?」

「あぁ、王はきっとまだ当分帰ってこられませんよ。いつも暇そうにしておりますが、動き出すとかなり集中して行動するので」

 なるほど、その反動でいつもあんなやる気のない感じですごしているのかしら? 彼がいないことを確認すると、私も自分の荷物を片付けつつジャマルを休める。

「ありがとうね」

 声をかけて、ブラッシングを行い、ご飯をたっぷりと食べさせてあげる。
 ずっと乗っていたので、こちらも疲れているが、彼らの方が疲れているだろうと思うと、すぐには休めなかった。
 そして、何事もなく数日が経過すると急に村が騒がしくなる。

「おい、戻ったぞ! 襲われたのか?」

 なんて情報が遅いのだろうか、まぁ、仕方がないのだけど……私たちは荷駄の護衛に関して話し合うため急いで村の中心部である彼の部屋へと行き会議を始めたいのだけど……。

「え、えっとそれでは詳しいご説明なのですが、そ、その」

 ファルス隊長が横目でチラチラと確認しながら気にしている。
 私も正直気が散ってならない。

「どうしたファルス、報告を始めろ」

「しかし、えっと、よろしいので?」

 ラバルナは何がいけないのかと言わんばかりの顔になる。
 呆れて声も出ない、だから私がいう事にした。

「ねぇ! ちょっと、なんであなたまで居るのよ」

 私が声を発した方には、部屋の中を物珍しそうにきょろきょろと見ている人物がいた。
 そう、先日荷駄隊を率いていたゼニスが、なぜかここの部屋にいたのだ。

「なぜって、ラバルナと一緒に来たからだぞ」

 さも当然のようにさらっと言うが、まるで意味が分からない。
 なぜ彼と一緒に来たからというだけで、この場にまでいなければならないのだろうか? それに荷駄隊は既にこの村を出ており残っているのはゼニスだけだった。

「ごめんなさい、言っている意味がわからないのだけど」

「おいおい、少しは頭を使えよ……前々からラバルナに相談されていたが、今回の襲撃を含めて考えたんだよ。俺の拠点をここに置くことにした」

 ⁉ 当然の告白に私とファルスさんが固まる。
 
「王都へは近ければ近いほど良いんだが、近すぎるとまた商売がやりにくい、だが遠いと経費も膨らむし今日みたいな襲撃の危険性も高まる。よって、護衛の兵もいて王都へも適度に近いここに拠点を移すのは商売をするうえでかなり良いと思うのだが、そ、それに……」

 言われてみれば、確かに彼の言う通りで、最後のほうは声が急に小さくなり何を言っているのかわからないけれど、私をチラチラ見てくるので、関係しているのかもしれない。
 ちょっと気に障る言い方に目をつぶれば、わざわざ遠くにいてコストをかける必要は無く、ここが物流の拠点になってくれれば一気に活気づくだろう。
 だからと言って、大事な会議に彼が同席してよいなんて思えない、私は目線でラバルナに訴えると小さくため息をついて、ゼニスを外に出してくれた。
 
「コレでいいのか?」

「もちろん、何を考えているのよ」

「あぁ見えて、かなりのやり手だ、こっちに引き込めて助かっている。今回はアイツ自ら提案してきたのは驚いたぞ、何をしたんだ?」

 何って言われても特に何もしていない。
 むしろ、最初の印象が悪すぎし……このイヤリングのセンスだけは認めてあげたいけれど、性格は苦手な感じだった。

「それでは、今回の襲撃に関して報告をいたします。我が方の被害は死者一名に負傷が二名とかなり痛手でした。相手は死者三名で負傷は不明です」

 ファルスの言葉に耳を傾けつつ、何かを考えている。
 この真剣な表情になったときの彼はカッコいいと思う。

「ジャマルという利点を覆し、ましてやファルスとレイナ以外は苦戦するなんて、どう考えても盗賊団じゃない訓練された兵なのは間違いないな」

「えぇ、仰る通りかと……おそらく教王国の正規兵で間違いありません」

 やはり、私が考えていたことと合致した。
 あの鍛え抜かれた肉体に、退却の良さ、色々考えれば考えるほど彼らが正規兵であることを裏付けていく。
 
「クソが、ついに動き出したか、今まで見ないフリをしていてくれたが、どうやら今後はそうもいかないだろう」

「無論、きっと今回の狙いは王、あなた様でした。なので敵は荷駄隊の先頭目掛けて突撃したと思われます。次いでレイナ様かと……」

「賊に扮していたのは、教王国は無関係を貫くためだろう、一応元王子と元聖女だ。それを政府側が殺したとなれば何が起きるかわかったもんじゃない」

 なるほど、それで人数も装備も最低限だったのかな? でも、練度の高い兵を向かわせてきたのだろう。
 ラバルナの腕前なら敵を退けられるかもしれないが、ゼニスは見た感じ弱そうだった。

『彼凄く弱いわよ、頭は良いかもしれないけど、ちなみに私はどちらかと言うとラバルナより好みかな』

 ソマリが急に話しかけてくる。
 しかも、どうでもよい情報が含まれていた。

(ねぇ、もっと必要なときに声を掛けてちょだいよ。なんで今それをワザワザ言うために話しかけてきたの?)

『だって、ほらこんなに色男が周りにたくさんいるじゃない? レイナも美人なんだから一つや二つ、浮いた話を見てみたいじゃない、私って生きていたころはそんな経験ができなかったから凄く憧れているのよ』

 それはそれは、残念だけど確かに顔はイケメンなのは認める。
 でも大切なのは心だと思っているので、今のところどちらにも私は揺れることはない。
 しかも、こちらには成すべき使命があるのだから恋などに現を抜かしている暇なんてないんだから!

「それで、レイナはどうだった?」

「え?」

「え? じゃなくて、初任務だったんだろ? 少しはなにかないのか」

 ソマリから話しかけられ、意識が逸れてしまっていた。
 小さく首をふり、集中して再度護衛のことを詳しく伝えていった。
 もし、今後相手がどんな手段を使ってくるのかわからない、今度は一人の犠牲も出したくない想いと、生き残れるだろうか? と、いう不安が混ざり合って妙な気持ちになっていく。
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