『義賊の女王』-世界を救う聖女となる-
***

「ぐぬぬぬ! 失敗しただと⁉ このクズが、首をはねてやるぞ!」

 剣を抜こうとした男を後ろで眺めていた国王が止めさせる。

「まぁ、待て待て、いつも思い通りになるはずもないではないか……」

 目の前には前回、元聖女たち暗殺に選ばれた精鋭たちが顔を青くしながら座っていた。
 
「しかし、精鋭部隊が何の成果もなく退却してくるのは如何なものかと? その積は重くまた消し去らねばならぬ! アヤツに喰わせておけ」

 ガタガタ、一気に立ち上がる兵たち、それを抑え込む近衛兵。

「くくく、オヤジ、なんだお前も随分と悪者じゃねぇかよ」

「ふん、この世界に悪者以外がおるか? 誰しもが最後に可愛いのは結局自分じゃよ」

 泣き叫びながら地下へと連れていかれる兵士たち、薄暗い部屋の中に無理やり閉じ込められたかと思うと、カパッと床に穴が現れる。

「う、うわぁぁあ!」

 どさっと、地下に砂地が存在していた。
 一人、また一人と落ちてい来る。 砂なためか誰も怪我することなく起き上がり、ガタガタと震えながら身を寄せ合って拳を構える。
 周りの壁はよく磨かれ、凹凸は無く登るのは不可能であった。

「し、死にたくない! しにた……ぎゃぁぁあ!」

 バクッと砂の中から巨大な口が現れ、一口で大人の男性を丸呑みにする。
 
「く、くるなぁぁぁ!」

 地下からは聞こえてくる叫び声は、次第に静かになり、瞬く間に静寂が戻ってくる。

「餌にしかならぬ、いや、これは使えるかもしれぬな……どれ、解き放つ時がきたようじゃな」

「おいおい、アイツを放ったら誰が止めるんだよ」

「そんなのは決まっておろう、兵士たちよ。何十、何百の犠牲が出ようと止めるまで、だが確実に反逆の徒どもを根絶やしにする!」

 不穏な空気を放ち始める。
 ただ、砂に潜る存在はじっと身を隠しながら時を待っていた。


***

 ゼイニが村に拠点を構えてからの動きは凄かった。
 いや、凄いって語彙力が低いように思えるが、本当に凄かったのだからしかたがない。

「おい! そこ、ここへ運べ」

 確かに、彼は商才があるのかもしれない。
 次々に運ばれてくる物資は、この砂漠中に販路を築いている証で確実にお金に変えていく。
 
「ねぇ、彼はいったい何者なの?」

 隣にいるファルスに話しかけると、キョトンとした表情になる。

「あれ? 前に言ってませんでしたか? ゼイニ様は……」

 肝心のところで、私の背後に気配を感じて振り向くと、そこに彼がいた。

「よ、よう」

「なに? 挨拶? それならもっとキチンとしてくれない?」

「ぐっ! お、おはよう」

 その言葉を聞いて私は満足し、おもわず笑顔になってしまう。

「うん、おはよう」

 私が挨拶を返すと、一気に顔面が紅くなっていく。
 どうしの? 熱でもあるのだろうか? ここ数日ずっと忙しそうに働いているので、無理がきたのかもしれない。
 そう思って近づき、確かめようとすると、一歩後ろに引き下がる。 なんだろう、この光景見たことがあるような?

「どうかしたの?」

「う、うるさい! 何でもない!」

 そういって、また仕事に戻る。
 変なの、もっと素直になればいいと思うんだけど、あれ? そういえば私は何を話していたんだっけ?

「レイナ、ここにいたのか」

 何を話していたのかを思い出そうとすると、ラバルナが訪ねてきた。

「どうかしたの?」

「次の任務が決まった。今度は戦力が必要で前回二人も倒した実力者が必要なんだ」

 実力者という言葉に違和感を覚える。
 私のこの力は自分自身が築き上げてきたものではなく、ソマリの力のおかげなのに……。

『そんな細かいこと気にしないほうが良いわよ』
「気にするわよ、だから私も強くなる」
『レイナらしいわ、あなたを選んで正解だったわね』

 いつか、彼女の力に頼らずに戦える力が欲しい。
 だから、私は努力していくしなかった。

「それで、次の作戦ってなにかしら?」

 ジャマル隊の主な面々が集まり、さっそく会議が始まる。

「今度は想像以上に厄介だぞ、正直勝てる気がしない……まさか教王国の奴ら、あんな化け物まで出してくるなんて、いったいどれだけ死体を積み上げるつもりなんだ」

 珍しい、彼が弱気になるなんて、今度の相手はそれほど強敵なのだろうか? ただ、口調からなにか違和感を感じる。
 
「ま、まさか、アレを解き放ったのですか?」

 こくりと頷く、だから、そのアレってなによ⁉ これが元居た世界の漫画だとよくある展開としては、殺すこともできない最強の死刑囚だったりするんだけど、もしかして本当にそれ?

「レイナは城にいたことがないからわからないだろうが、アレはヤバイ。人がどうのこうのできる存在じゃないんだよ。先々代の王が百人近くも犠牲を出して城の地下に封印することしかできなかったんだから」

 ごくりと唾を飲み込む、なに? そんな存在がこの世界にいるの?

「それって……」

「名をイルルヤンカシュと言う、砂の中を自由に動き回り、その姿はまるで竜であると伝えられている。教王国でも闇に葬りたいヤツの骨も残さないように始末する場合に使うと聞いていた」

 イルルヤンカシュ……なんだろう、胸騒ぎが収まらない。
 そんなヤバそうなやつの名前が当然あがるなんて何かあるに決まっている。
 そして、フォルスさんが言っていた解き放ったという言葉の意味を知らない私でもなかった。
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