契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
 だがある意味ではそう言われても仕方がないのかもしれない。渚をプリンセスと陰で呼び、彼女の気を引こうとして撃沈した弁護士が事務所内に、複数いるのは事実なのだから。

「またまた……。しかも結婚生活が始まってから、プリンセスはどこかお疲れモードだって皆言ってるぞ。お昼休みに自分の席でかわいい寝息を立てていることもあるそうじゃないか。これはいったいどういうことだ? ん?」

 ニヤニヤとして意味深なことを言う音川に、和臣は心底うんざりとして口を開く。

「慣れない生活で疲れているだけですよ。音川さんそれ以上言うと……」

 だがニヤニヤが止まらない音川に、なにを言っても無駄だと思い首を振った。

「……お先に失礼します」

 相談室を出て、自分の個室まで続く廊下を足速に進みながら、和臣はまいったなと心の中で呟いた。
 結婚前も同僚弁護士たちはどこか渚を意識していたが、どうやら結婚してもそれは変わっていないらしい。
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