契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
 昼休みの様子まで話題に上っているとは。
 まったく……。
 弁護士といえど所詮は男。一皮剥けば皆あんなもんだ。
 自室へ戻った和臣は座り心地のいい黒い椅子に身を沈めて、暖かい春の日差しが照らす街並みを眺めた。
 和臣と渚が形だけの結婚をしてから一カ月が過ぎた。
 突然の結婚発表に事務所内は一時期蜂の巣を突いたような騒ぎになったが、渚自身はどこ吹く風で、当初の計画通り二週間前から念願の専門学校へ通いだした。
 だからここ最近彼女が疲れて見えるのは、なにも音川が想像するようなことが理由なのではなく、ただ昼間は通常通りの仕事をこなし、夜は学校へ行くという生活に身体が慣れていないだけなのだ。
 それなのに……と、和臣は新緑の街路樹を睨みつける。だがすぐに渚の一生懸命な姿が頭に浮かんで、小さく息をついた。
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