契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
 おそらくは、遅くまで事務所で仕事をしていて、帰宅してソファに倒れ込んだとたんそのまま眠ってしまったのだろう。
"死んだように寝ている"というのはまさにこのようなことを言うんだろうと渚は思った。
 そして夜景の光に照らされた、和臣の綺麗な寝顔を見つめるうちに、今日の昼間の出来事が頭に浮かんだ。
 今日の午後、和臣に急な来客があった。
 飛び込みで来たその老夫婦は、和臣を指名してどうしても相談したいことがあると受付の女性事務員に頼みこんでいた。
 和臣はほんの数分前までは別の人の法律相談を受けていて、さらに四十分後には裁判所へ出発する予定になっていた。
 その他の時間のスケジュールはもうすでにいっぱいで、その時間しか対応できないのは明らかだった。
 でも裏を返せば、そこが今日の彼の唯一の休憩時間だったのだ。
 受付の事務員は困惑して隣にいる先輩に意見を求めたようだった。すると相談を受けたもうひとりの事務員は

『瀬名先生なら大丈夫でしょ』

と軽く言って内線を鳴らした。
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