契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
 こんな立派な屋敷に住む和臣の両親は、渚を嫁として受け入れてくれるだろうか。
 期間限定だとはいえ、向こうはそんなことは知らないのだ。自分のために両親に嘘をつくことになってしまった和臣の為にも、失礼のないようにしなくては……。
 だがその屋敷の中から出てきた和臣の家族は渚のそんな不安をあっさり吹き飛ばす、温かい人たちだった。
 忙しいこと言い訳にして、まだ顔合わせすらしていないことをわびる渚に、気にすることはないと首を振った。そしてその時になって渚は、実は父が一度この家を訪れているという話を聞かされた。
 なんでも地方の講演があった折に足を伸ばして立ち寄ったらしい。菓子折りを持参して丁寧に頭を下げていったという。
『いいお父様ね』と和臣の母に微笑まれて、渚はなんともいえない複雑な気持ちになった。
 古い家とその家族は渚をまるで初めからそこにいたかのように包み込み、迎え入れてくれた。
 農作業を手伝いながらさまざまなことを教わり、昨夜は同じ食卓を囲んだ。
 当たり前で、されど貴重な家族の団欒。
< 166 / 286 >

この作品をシェア

pagetop