契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
帰り道
 和臣は、新幹線の車窓から流れる景色を眺めている。昨晩はろくに寝ていないというのに、頭が冴えて少しも眠気は感じなかった。
 隣の席に視線を送ると、そこには普段どれほど難しい案件に遭遇しても冷静に対処できるはずの和臣を、悩ませ続けている原因、渚が、くうくうとかわいい寝息を立てて呑気に眠っている。
 冷房対策のために被っているカーディガンが少しずれて、ノースリーブの肩が見えていた。
 少し開いたあどけない唇に、和臣は笑みを浮かべて、カーディガンを渚の肩に掛け直した。
 久しぶりの帰省が終わろうとしている。
 実家のある田舎から東京へ向かう時は、いつもどんな時も、どこか後ろ髪を引かれるような思いがするものだが、今回はそれに輪をかけて東京へ戻るのが惜しい。
 その気持ちを、和臣はもてあましていた。
 結婚をして一緒に住んでいるとはいえ、普段の和臣と渚はあまり接点がない。
 夕食は作ってくれてはいるものの、毎日帰宅時間はバラバラだから、食べるのは各自だし、渚は家にいる時は大抵は自室にこもっている。
 互いに干渉し合うことのないルームシェアのような関係。
 でもこの旅のふたりは違っていた。
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