契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
【ごめん! 番組のあと打ち合わせが入った。飲みながらだから、ご飯はいいよ。もし準備しかけてたら申し訳ない】

 そのメールに、

【大丈夫です】

と返信しながら、風船のようにふくらんでいた渚の心はあっというまにしぼんでしまった。
 彼にとってはテレビの方も大切な仕事なのだから、突然予定が入るのは仕方がない。
 仕方がないけれど、残念だと思ってしまうのはどうしようもなかった。
 渚は小さくため息をついて、リビングでつきっぱなしになっているテレビに視線を移す。
 画面の中では和臣が、アナウンサーの隣で政治家の汚職事件について、的確にコメントをしている。
 嫌味にならないくらいの高級なスーツを着こなして、難しい問題を、視聴者にわかるように噛み砕いて話す姿に渚の胸は締め付けられた。
 夏の帰省から一カ月以上経っても渚の中の和臣に対する気持ちはなにひとつ変わらなかった。
 あの時、期間限定だと言い聞かせて、そこにいることを許した恋心は、いまだ渚の中に居座り続けている。
 あいかわらず激務が続く和臣の身体が渚は心配でたまらない。
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