契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
 仕事中は、彼の休憩時間を埋めるように法律相談の予約を入れる先輩事務員を、恨めしく思うこともあるくらいだった。
 今だって。
 今夜は彼と一緒にご飯を食べられない、ただそれだけのことでこんなにも浮かない気分になってしまう。
 渚はぼんやりとリビングからの景色を眺めた。
 きっと、あの帰省の日の夜に渚の中の仮初の恋心は彼の手によって本物にされてしまったのだろう。
 彼にとってはちょっとしたじゃれあいでしかなかったとしても、あの夜の出来事は渚にとっては大きな衝撃だった。
 Tシャツの下の温もり、少し野生的な甘い香り、渚を包む腕の力強さ……。
 しかも渚の勘違いでなければ、あの夏の帰省以来、和臣の渚に対する態度は少し変わった。
 お互いに忙しいすれ違いの生活には変わりないけれど、それでも折に触れて気にかけられるような気がした。
< 193 / 286 >

この作品をシェア

pagetop