契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました

「おつかれさま、……行けそうかな」

 瀬名が低いよく通る声で、事務室の誰ともなく声をかける。とたんに場が色めき立った。 

「瀬名先生、おつかれさまです!」

 一番に声をあげて立ち上がったのは、渚の先輩にあたる川西愛美(かわにしまなみ)だ。

「おつかれさまです」

 他の社員たちも答えて立ち上がり、瀬名のところへ集まりだす。これから、皆でランチに繰り出すのだ。
 佐々木総合法律事務所では毎月第一水曜日に所属弁護士のうちのひとりが事務員にランチをご馳走するという習慣がある。
 日頃から弁護士の仕事を支えている事務員に対するささやかなお返しなのだという名目で、各弁護士が自分のおすすめの店に連れて行ってくれるのだ。
 今日はその第一水曜日だった。
 渚も皆に習い「おつかれさまです」瀬名に答える。だが、彼のもとへは行かずに判子を置いて机の上を片付け始めた。
 このランチ会は公式のものではないから参加は自由だ。ここで働き始めて約二年、渚は一度もこの会に参加したことはなかった。
< 2 / 286 >

この作品をシェア

pagetop