契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
「ではなぜ、カタヤマ弁当の名義は奥様のままになっているのですか? 二年前、奥様が亡くなられた時に先生は事務所に指示を出して全ての相続手続きを済ませられたはず。それなのに、カタヤマ弁当の土地建物だけは、そのままだ。……先生も、"もしかしたら"と思っておられたのではないですか?」

 和臣の言葉に、龍太郎は目を見開いたまま、しばらく動けないでいた。
 重い重い沈黙がしばらくの間、この場を支配する。
 それぞれが、それぞれの思いを抱いて立ち尽くした。
 再び口を開いたのは、龍太郎だった。

「わしは、認めん」

 唸るようにそう言うと、踵を返して家を出てゆく。バタンと閉まる玄関の扉の音と同時に渚はそのまま崩れ落ちるようにしゃがみ込んだ。

「渚、大丈夫か?」

「和臣さん……」

 渚の目から新たな涙が溢れだす。頭がぐちゃぐちゃに混乱して胸の鼓動は痛いくらいに鳴っている。
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