契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
 渚はかっとなって言い返した。

「どうしてこんなことをするんですか? こんな……こんな根も歯もない記事のインタビューを受けるなんて……!」

「根も歯もない?」

 愛美が憎々しげに渚をにらんだ。

「本当にそう言いきれるの? あんたなんて、父親が所長だったってだけじゃない! そうじゃなければ、絶対に瀬名先生はあんたと結婚なんてしなかった。私……、私の方がずっと前から好きだったのに!」

 愛美が渚に一歩近づいた。

「あんたは所長の娘という立場を利用して先生に結婚を強要した。しかも今度はそのせいで先生はテレビでのイメージを失うかもしれないのよ。どれだけ迷惑をかけるつもりなのかしら」

 彼女が口にする真実の数々が渚の胸をぐさぐさと刺した。

「せ、先生を好きなら、どうしてこんなことをしたんですか。こんな……」

 渚はそう言うのが精一杯だった。

「さあ?」

 愛美が投げやりに肩をすくめた。

「自分のものにならないなら、もうどうでもいいのかも」

 そしてくるりと踵を返して、出口に向かってカツカツと歩いてゆく。

「先生の相手が女優や女子アナだったらこんな風には思わなかった。あんただったから許せなかったのよ」

 そう捨て台詞を吐いて、愛美は部屋を出ていった。
 資料室の古い扉がバタンと音を立てて閉まる音を聞きながら、渚はその場に立ち尽くしたまま、しばらく動くことができなかった。

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