契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
 後で冷静になって思い返した時、べつに彼に誤解されたままでも全然構わなかったはずなのに、と渚は思った。
 もともと瀬名と渚はほとんど接点もないのだし、瀬名がまさかそれを吹聴して回るような人物とは思えない。
 むしろ渚が密かに抱いていた突拍子もない無謀な計画を知られる方がよほど恥ずかしいことに違いない。
 でもなぜかその時渚は、目の前の瀬名に誤解されたままは嫌だと思った。
 瀬名はソファに肘をつき長い脚を組んで渚を見つめている。
 渚は彼に向かって口を開いた。

「本当に違うんです。好きとかそういう気持ちがあるわけじゃなくて、ただお願いしたいことがあったんだけなんです」

 渚の言い訳に、瀬名が少し興味を惹かれたように眉を上げた。

「お願いしたいこと?」

「そうです」

 その瀬名の様子に、どうやらこのままきちんと話をすれば誤解は解けそうだと思い、渚は少し勢いこんで話し始めた。

「うちの父は、先生もご存知の通りものすごく厳しいんです。娘の私にあまり自由はありません。今まで進路も、就職も……なにもかも父が決めてきたんです」

 そこで渚は言葉を切って息を吐く。瀬名が続きを促すように小さく頷いた。
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