契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
 瀬名はそこで言葉を切って、少し遠い目をした。

「君のその目標自体にもすごく興味を惹かれたよ。実は、私は君のお婆様がやっていたというそのお弁当屋さんを知ってるんだ。昔、まだ事務所で働き始めたばかりの頃、忙しくて昼飯も取れない日なんかに先生がよく差し入れてくださったお弁当が、確かカタヤマ……」

「『カタヤマ弁当』です!」

「そう」

 勢いこんで声をあげる渚に瀬名がにっこりとした。

「カタヤマ弁当のお弁当だった。とにかくボリュームがあって嬉しかったな。メンチカツが美味しかったって先生に言ったら、次からはひとつ増えてたりしてさ。でも自分で買いに行くようになってから自分が食べていた弁当は、メニューにないって知ったんだ。あれは特別に作ってくれていたんだな。三年前、閉店したと聞いた時は寂しく思ったよ」

 瀬名の意外な話に渚は言葉を失った。そして注文が耐えない店先で、いつも忙しくしていた祖母の姿が脳裏に鮮やかに蘇った。

「あの頃の私は食事よりも仕事だった。食事なんて食べられればなんでもいいと思っていたけど、カタヤマ弁当の"日替わり"は毎日食べても飽きなかった。あの頃の私が健康でいられたのは、きっとあの弁当のおかげだよ。だから、もし君が本気でやりたいというならば協力したいと思ったんだ。まぁ……お婆様へのささやかな恩返しといったところだな」

「瀬名先生……」
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