その一瞬を駆け抜けろ!
100メートル決勝30分前、コールを済ませ、
スタート付近で、わたしのストレッチを咲が、
見守ってくれていた。
今日は、
咲が荷物をゴールまで運んでくれるらしい。
「ねぇ…咲…」
「ん?なぁに?」
「わたし、珍しく、緊張してるんだ…
スタートで転ばないかな…」
と不安そうな声で聞いてしまったので、
咲は、少し笑いながら
「転んだことあるの?」と聞くから、
「ないよ」と即答した。
「じゃあマイナスなことは、
考えないほうがいいよ。また背中、叩こうか?」
といってくれたので、
「うん、お願い」と頼み、
「転ばないかなよ!大丈夫!」
と、子どものおまじないのように
唱えながら
咲は、思い切り手のひらで
わたしの背中を「バシッ」と叩くと
思わず、
「うっ!」と言う声が出てしまった。
わたしは、少し眉間にシワを寄せながら、
「咲…痛いよ…」と苦情を言うと
「大丈夫!薫ならいけるよ!
悪霊退散ってしといたから」
とケラケラ笑うので、
自然と肩の力も抜け、リラックスができた。