エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
一度目、駅で彼女に声をかけた夜は、食事に誘ったが断わられた。ひとりにはしたくなくて、さらに初めて持てるふたりの時間を逃したくなくて、家まで送ると言った。警戒した彼女に不意打ちで電車を降りられてしまい、駅までしかわからなかったが。
そうして二度目になる昨夜、俺は泣く彼女をこの腕の中に閉じ込めた。
がしゃん、と音がしてスチールの用具入れに背中を打ち付ける。俺は手を出していない。伊東先生が俺の白衣の胸倉をつかみかかってきたからだ。
「お前っ……わざとだろう⁉」
その言葉に、無言で返す。
もちろんわざとだ。一度目の夜と似たような展開で、昨夜、伊東先生が女連れであの店に来ることを俺は知っていた。いいかげん、あの階段の踊り場が逢引の場所だと周囲に知られていることに、気が付いた方がいいと思う。
伊東先生の手首を掴み、強く、握りつぶしてやるくらいの気持ちで力を入れると伊東先生の表情が歪む。
「こんなところで声を荒げたら、人が来ますよ。伊東先生」
悔しそうに、渋々彼が手の力を抜き俺の白衣を離す。こちらも握力を緩めると、勢いよく振り払われた。
自業自得だろう。俺はちゃんと宣言した。
「だから、言ったじゃないですか」
「……なんだよ」
「隙を見せたら奪いますよって。最近の伊東先生は隙だらけでしたから、助かりました。ありがとうございます」
一瞬、なんのことかわからなかったようで、彼は眉根を寄せていた。だが、しばらくしてじわじわと驚きの表情に変わる。
「……お前、昔の。あれ、本気だったのか」
その言葉に、俺は口角を上げて答えた。