エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
――今頃、もう自分の家に帰ってるだろうな。
時計を見れば昼をとっくに過ぎている。帰るまで居てくれたらうれしいとは伝えたが、きっと待ってはいないだろう。置いてきた合い鍵を彼女が持って帰ってくれていたらいいのだが。
後は、永井さんに頼んで、彼女と連絡が付くようにしなければならない。携帯番号を書いて出ようかと思ったが、彼女からは絶対連絡はしてこないだろうとやめておいた。
それなら、慌てて忘れたフリをしておいて、苦労して永井さんを説得した方が、彼女の良心に訴えられると思ったからだ。
しかし、この永井さんが思ったよりも強敵だったのだ。それだけが、計算外だった。
「えっ。高野先生って雅の連絡先知らなかったんですか」
永井さんのいる病棟フロアに赴き、話をする時間を作ってもらう。売店のソフトドリンクコーナーでそれぞれ飲み物を買い、壁に備え付けられたベンチに座っている。
連絡先を教えてほしいとまずは簡潔に伝えると、驚かれた。
「知ってるのは永井さんくらいじゃないか? 俺も他の奴も多分知らない。伊東先生経由でしか、彼女とは関わってないからな」
伊東先生はああ見えて、案外彼女のことになると独占欲が強かった。年下の恋人を自慢げに見せびらかすようにしながら、直接彼女と連絡先を交換しようとする人間には目を光らせていた。
それができたのは、おそらく彼も止められないくらいに後藤さんと仲よくなった永井さんだけだろう。
「へえ。じゃあ、それが急にどうしたんです?」
警戒されてしまったようで、彼女の声と目つきが、探るようなものに変わる。俺は少し考えてから答えた。