エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
 だけど、ある程度は察していたのだろう。彼は、私の頭を優しく撫でた後、上から退いてくれた。掛け布団がめくれあがりそうになって、慌てて掻き寄せる。寝転がったまま、高野先生の広い背中を見上げた。

 細身だと思っていたけれど、綺麗な筋肉のラインが見えて案外鍛えているのだと知る。彼が髪をかき上げながら、ベッドの脇に置いてあるローボードに手を伸ばした。スマホで時間を確認したらしい。彼が振り向いて、また目が合ってどきりとした。

 大きな手が私の前髪をかきまぜ、くしゃくしゃと音がした。それから立ち上がり、彼がすっぱだかだったことに気が付き慌てて布団の中に潜る。
 だって、下も履いてなかったので。

「まだ寝ててもいい」

 ぽん、と布団の上から軽く叩かれた感覚があり、少ししてから部屋のドアが開く音が聞こえた。
 布団から顔だけ出すと、もう彼の姿は見えなくてドアがちょうど閉まるところだった。

「……はい」

 小さく返事をした声は当然、もう聞こえていない。
 どうしよう。いくら、このまま寝ていていいと言っても、さすがに図々しい気がする。今は何時で、私のスマホはどこだろう。多分、バッグの中に入れっぱなしだ。そのバッグは、リビングに置いたままかもしれない。

 取りに行かなくてはと思うのだが、まだとてもじゃないが身体が動きそうになかった。おそらく彼は、今日も勤務日だろう。だとすると今シャワーを浴びていて、上がったらまたこの部屋に来て出勤の身支度をするはずだ。

 脱いだ服の場所も探さないといけないが、素っ裸でうろうろして見られるのは避けたい。なら、彼がシャワーを終える前に探さないと。

 すぐに出ていけるように身支度をして、高野先生がシャワーから出たら誠心誠意謝って、昨夜のことはどうか気にしないでと伝えなければ。
 慰めてくれた先生が、気に病まないように――ああ、だけど、わざわざ言うほどでもない? 言ったら逆に、気にさせてしまうだろうか。

 頭も体も重たくて起動しない中、申し訳なさと後悔が押し寄せてくる。きっと彼も酔っていて、あまりにも泣く私を放っておけなかったんだろう。

「……ごめんなさい」

 唇を噛んで、ぎゅっと目を瞑る。自分の失恋に彼を巻き込んでしまったことに、ひどく後悔した。


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