エリート外科医は最愛妻に独占欲を刻みつける
布団にくるまって考えているうちに、すうっとまた深く寝入ってしまっていたらしい。
「……さん。後藤さん」
軽く肩を揺らされて、ぼんやりと目を開ける。
「仕事だから行く。起きたら、家の中のどこでも自由に使ってもらっていいから」
そう言いながら、高野先生が私の頬を撫でていた。私はまだ寝起きで頭が働かない。ぼんやりとしていると、彼が苦笑をして目元にキスをした。
「行ってくる。話がしたいし、俺が帰るまでいてくれたらいいけど、ちょっと何時になるかわからない。後藤さんの都合の良いようにして」
――まるで、恋人にするみたいに優しいキスだ。
ぼんやりと考えている間に高野先生はまた寝室を出て行った。
しん、と静かになった寝室で、ゆっくりと起き上がる。
「いたた」
腰がピキピキと軋んで、一旦蹲った。この痛みが、昨夜の出来事が現実だと改めて私に突きつけて教えてくれている。
直樹さんが、他の女性と付き合っていたこと。高野先生が、心配してずっとついていてくれたこと。それから――。
思い出すのは、怖いくらいに情熱的なキスと愛撫と、ひたすら私を甘やかす優しい言葉。
「やって、しまった……なあ」
きっと、高野先生はずっと前から知っていたのだ。以前、駅で待ちぼうけしていた時に声をかけて送ってくれたのも、多分そのためだった。
そんな風に気遣ってくれていた人に、なんてことをさせてしまったのだろう。
あの店で直樹さんと出くわした時からの記憶が、あやふやだ。店を出る時に直樹さんと言い争いになって、その時のお互いの言葉ははっきりと覚えている。
だけどその前後、特に後の方が途中の記憶が飛んでいるのだ。多分、泣き過ぎていたり呆然としている間に歩かされたりしていて、記憶に残っていない。